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熊本便り 24

 

「あるいい女の話」

前回のコラムで、熊本のおなごについて、あんまりいい印象を書かなかったので、今回は熊本のおなごの名誉にかけて、すばらしい一面を書きます。

さて、わたしの知人夫婦は大学卒業後、就職と同時に故郷を離れ、55年もの長い間、関西に住んでいた。子どもにも恵まれ、人生を謳歌していたが、26年前、おくさんに乳がんがみつかり、摘出手術を受け、完治した(と思っていた)。その後は子どもたちも独立して、夫婦ふたり仲睦まじく暮らしていた。

ところが、2年前の春のこと、おくさんが風邪をひき、それがなかなか治らないので、病院に行ったところ、24年前の乳がんが再発していることがわかった。しかも、その時点ですでに肺やリンパにも転移していて、外科手術で治る見込みはゼロ。抗がん剤に頼るしかなく、その治療を受けていたが、今年の8月末、あの暑いさなかに熊本に引っ越してきた。昨年の春、わたしは関西までお見舞いに行ったが、おくさんが元気になって会いたいから、との理由で会えずじまいだったし、帰る早々、入院し、いまは緩和ケア病棟に入っている。

そんなこともあって、突然の帰熊は、ご主人がきっとおくさんに人生の最期のときをなつかしいふるさとの熊本で過ごさせよう、ということなのだろうと思っていた(みんなそう思っている)。

しかし、である。事実はまったく違って、逆だった。以下は、わたしとおくさんの会話。

「帰ってきて、よかったね。安心したよ」

「うん、そうやね。お父さんがもうすごい疲れててね。買い物からしないといけないし」

「慣れない仕事だもんね」

「そうなんよ。それに、お父さんは向こうではひとりも友だちもいないし。一日中テレビばっかり見てるんよ。わたしがいなくなって、お父さんひとり、あんなとこ置いておけんでしょう。だから、わたしが帰りたい言うてお願いして、無理して帰ってきたんよ」

「えーっ」

8月は暑かったけど、動けるうちに帰らんと、もう帰れないと先生に言われてね」

「そうだったんだ。ご主人は知ってるの、そのこと」

「どうかなあ、知らないと思うよ。でも、それでいいのよ。恩着せたくないし、わたしはもうそんなに長くないからね」

話は聞いてみないと本当にわからない。ご主人をひとりで関西に残さないために、新幹線の車両に1台しかない寝台に寝て帰ってきたのだ。おくさんがどうしても帰りたかったわけではない。むしろ、関西に残りたかったかもしれないのだ。友だちもたくさんいる関西に。しかし、家も処分するという。

もしかしたら、酷暑のなかので移動はいのちを縮めたかもしれないし、ご主人はおくさんの最後の願いを聞いてあげたなんて思っているかもしれない。でも、おくさんの心残りは、そしてご主人への最後の愛情は、しっかり遂げられたのだ。それこそ、ひっそりと。

うーん、すごいなあ。おくさんは黙って逝くつもりらしいが、しかしわたしは、必ずご主人に話す。死出の病にあっても、ご主人のことを思ったおくさんのすばらしさを。

あ、でもこれって、熊本のおなごだから、ということはないか。いい女だなあ、ホントに。

 

徳丸 のり子 

 

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