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熊本便り 23

 

熊本ラーメン紀行

 いま、ラーメンが嫌いというひとがいるだろうか。おおかたの日本人はラーメンが好きと思われるが、ラーメンにもいろいろある。塩ラーメン、しょうゆラーメン、味噌ラーメン、そして、とんこつラーメンである。

もちろん、熊本ラーメンはとんこつである。いまでこそ全国区になったとんこつラーメンはどこに行っても食べられるが、まだわたしが若いころ、つまり上京したてのころはとんこつラーメンなど首都圏にはほとんどなかった。ラーメン食べたいなあ、と思ってもしょうゆラーメンしかなく、泣く泣くがまんしていた。そのうち、熊本の名店、桂花ラーメンが新宿に出店し、わざわざ新宿まで足を運んだものだった。

時は移り、新横浜に「ラーメン博物館」がオープンしてからは、ラーメンを取り巻く環境ががらりと変わった。もちろん、ラー博にも熊本ラーメンはある。その名も「こむらさき」。わたしが学生時代、よく通った店だ。うれしくなって、オーナーの岩岡さん(五大路子さんの弟)に話を聞いたところ、「全国2万店のラーメン店を回り、出店する店を決めました。熊本ラーメンはレベルが高く、なかでもこむらさきがよかった。しかし、店主が出店に同意せず、何度も足を運び、やっとお願いしたんです」とのこと。やっぱりな。桂花より麺が細く、スープはあっさり味。熊本の本店は、いまでも500円という安さだ。

ところで、とんこつラーメンといえば、博多も有名だが、熊本とちょっと違う。熊本ラーメンに比べ、あっさり風味のスープで出される店が多い。麺は極細のストレートのため伸びやすいので、麺の量が少なく、替え玉することが前提になっている。

熊本ラーメンは、麺は博多ラーメンほど細くなく、スープはとんこつだが、だしとして使うのは豚の頭だけ。鶏ガラをブレンドするのがベーシックで、マイルドで香りも良い。そして、味にアクセントを加えるのが「マー油」だ。これは、にんにくを揚げた油のことで、スープに混ぜるので、スープの表面に黒い色をしたマー油が浮かんでいて、にんにくの香りも半端ない。これが強烈な個性を発揮し、食欲を倍増させる。また、ラーメンにトッピングされているきくらげもこりこりして美味だ。

 熊本の有名店としては、先の2店はもちろん、「黒亭」「天外天」「大黒」「味千」などがあるが、わたしのなかの名店は違う。地元、山鹿市の「八千代ラーメン」。帰省すると、まだ実家にたどり着く前に、このラーメン店に直行していた。味は、こむらさきに似ているけれど、似て非なるもの。もっと、こってりしているけれど、でも、すっきりした味で、スープと麺の調和がとれていて、とてつもなくおいしい。が、が、が、悲しいことに、この店はつぶれてしまった(2代目が夜逃げした)。もうあのラーメンを食べられないと思うと、ものすごく悲しい。

 先日、有名な食のコンサルタントと話していて、世界中のおいしい店の話のあと、ラーメンの話になり、わたしが「なんといっても八千代ラーメン」と言うと、もう何年も前につぶれた店のことをそのひとも「わたしもです」というではないか。そして、ふたりしてあのすばらしい味を堪能できないことを嘆きあったのだった。

徳丸 のり子 

 

《活動ニュース》